「あ…の」


着いた先は、近くの公園のブランコ。

その人はブランコに座り、やっとフードを外した。

パサリと色素の薄い髪が顔にかかり、その髪の隙間から瞳が覗く。



「…顔見て…なんも言われないの…初めて」

「え?」

「同業者?」


返答のしようがなく、黙っていたら「……違うんだ」と言って、隣のブランコを指差す。


「…座りなよ」



おもむろに座り、顔を見つめ続けていたら首を傾げられた。



「……顔、なんか…変?」

「違います!」



初対面の人に、性別を聞くのは失礼に決まってる。



「俺…琉飛」



性別が分かったと同時に名前も分かった。ただ、やっぱり、月光が透けて前髪がキラキラ輝いている姿は女性にも見えないことはなかった。



「俺は…東吾です…」

「……敬語、いらない」

「え?」

「敬語、嫌いなの」



何だか奇妙な関係のまま、相手のことを知っていき不思議な気持ちになった。



「ん」


差し出されたのは、先ほどのみかんゼリー。



「え、これ」

「おれ…それは他のお店でいっぱい買った」



そう言って見せてきた袋には、みかんゼリーが10個ほど。



……やっぱり、相手のことを知っていき…なんて嘘かもしれない。

琉飛…という人物が全く分からない。



「ね、…東吾」




だけど、彼が呼ぶ“東吾”があまりにもしっくりときて、それもまた不思議だった。




「星が…きれいだよ」

指差された先に広がるのは満天の星空。



「今日はこれを見たくて、寄り道してみたんだ」

「ふふ、…一緒。…俺も星…見たかったの」



晴とかには分からないもん、と呟いて笑みを浮かべる琉飛の横顔は優しげだった。



「…何か、今日良いことでもあったのか?」

「…え?」



いつもの彼の表情なんて知らないのに、何故かそんな言葉が溢れた。



「い、や…、何となくそう思って」


軽く狼狽える俺を見て琉飛は再びくすくす笑う。



「あった。…よく分かったね、東吾」

「何となく、だよ」

「ふふ、すごい。…あのね、俺の大好きな人が…俺の大好きな人と…最近仲良しになってきたの」



へえ、と頷くと琉飛がふわりと笑った。




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